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だけれど他の誰でもないアナタの為に
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秋の始まり、ぽかぽか陽気、いい気分。
ついさっき「腹痛です」と言って教室を出て行った君の居場所はわかってる。
サボり魔だなあ、そう言ったらきっと君は笑って言うんだろうなあ。
こんなお天気なのにおてんとさんを浴びないでどうするの、って。
そうしてわたしはつられるみたく笑って、確かに、なんて頷いてさ。
そう考えていたら君が見える。やっぱりここ。
階段下の窓の鍵があいているのは君の仕業。
わたしもよじ登ってジャンプ、ビックリした顔で、でも嬉しそうにわたしを見る。

「けーんちゃんっ、」
「よ、サボり魔」
「ふふ、それはこっちの台詞ですよ」
「だってこんな天気なのにさー、」
「おてんとさんを浴びないで どうするのって?」
「それですね、そういうことです」





ごろんと横になる健ちゃんに倣ってわたしも隣に寝転がる。
太陽でぽかぽかのコンクリート、制服は後でほろえばいいよね、きもちー。
目をつむって瞼の上に注がれる光を感じる。寝ちゃいそう。

「雪菜なんかやなことあった?」
「んー、どうして?」
「なんとなく。」
「あはは、あったけどもう忘れちゃったー」
「それはよかったです」

けんちゃんはすぐ気づく。
わたしが気づかないようなことまで、わたしの事を考えてる。
すごいなー、なに食べたらこうなれるんだろう。
あ、もしかして今日教室出たのはわたしのためかな?
けんちゃん出てけば絶対わたしもついてくるって読まれたのかな?
…考え過ぎかー、健ちゃんは単純に太陽が浴びたかっただけだなあきっと。

「健ちゃんはなにかありましたかー?」
「ありましたよー」
「え、なになに!」
「ぼくね、引っ越すことになりました」
「へー、どこに?」
「ここから車で5時間かかるとこ」
「嘘ばっかり、こないだ僕の家候補そのいちとか言ってたとこすごい近所じゃん」
「くそう、ばれてたか。つまんないのー」
「で、どこになったの?」
「候補そのさん、スーパーの近くのところだよ」
「そうなんだ!引っ越し大変だねー、」
「手伝いにきてよ」
「気がむいたらいいよ」
「むいてね」
「善処します、って気が言ってる」


「中林、酒田、教室に戻りなさーい」

ふと見上げると阿部っちが まったく、なんて顔をしていた。

「お腹いたいです、せんせー」
「保健室行きなさい」
「保健室きらいでーす」
「わたしもでーす」
「ったく、キミら小学生か。」
「だってほら、太陽気持ちいいですよ?」
「…次の授業にはちゃんと出ろよ?」
「阿部っち大好き!」
「ぼくもすきー!」
「そして今度先生にハーゲンダッツおごりなさい」
「生徒から たからないでくださーい」
「はは、じゃあ、先生はなんにもみてないからなー」

と言って窓を閉めた。
阿部っちは変な人、書道の先生。ゆるくって大好き。
そんなわけで一命を取り留めました。よかったよかった。
残り時間は20分、ばれないようにチャイムが鳴る前にトイレに入らなきゃ。

「平和だなー」
「だねー、こわいくらいに ね」
「今世界が終わったらどうする?」
「死んじゃうよ、それは」
「やり残したことは?」
「なんだろ、なにかなー」
「なんだろなー僕もわかんないや」
「健ちゃんはさ、幸せですかー?」

そう尋ねると、健ちゃんはゆっくり伸びをして、立ち上がる。
そしてわたしの手をひいて、わたしはその手をつかむ、身体をおこす。

「しあわせ、ですよー、たぶん!」
「ですよねー、たぶん!」
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はっ、と起きて思い出した。
目が覚めて天井をみたら、まるでそこに文字が書いてあったかのように。
急いで起きて髪の毛巻いてマスカラして、
遠い昔の、だけど大切にとっておいたピンキーリングをはめて、待ち合わせ場所へと急ぐ。
10年とすこし前の約束。
「もし僕らが約束を覚えていたら」だなんて不確かな約束。
彼が来るかもわからない。わたしも朝ふと思い出すまで忘れていたし。

それでも早まる足もと。
顔、わかるかな?変わってないかな?
会って最初になんて話そう。
会えるかもわからないのに、そのことばかり考えている。
どきどき、どきどき、なんか うれしい。

最後の曲がり角を曲がると、太陽が笑った。彼だけを照らした。
久しぶりに会う彼は別人のようだったのに、どうしてか一瞬でわかった。
人気者でいつもくしゃくしゃに笑って、わたしのあこがれだった彼。
いま、ふたたび目の前にいる。
最初になにを話そう、と必死で考えていたのに、言葉がでない。
右手を伸ばして微笑む彼の手をとる。なんか、ドラマみたい。

あの頃思い描いていた未来はちゃんと、ここで待っていてくれた。
今なら空も飛べそう。
彼がそう言って、私も笑って。
二人で歩くこの道の先にもきっと、思い描く未来がある。
繋いだ体温が、そう教えてくれた。
ずっと、変わらずにおれの隣にいたんだ。
一通メールしただけで、すぐに呼び鈴が鳴るほど、近くで生きていたのに。

「東京の大学に、行こうと思う。」

ばかじゃねえの、と思った。
「大学ならこの辺にだってある」と言ったおれの言葉は
彼女の強い意志の前だと何の意味も持たない。
東京でしかできないことがある、そうまぶしい瞳で言われた。
焦って、困って、途方に暮れているおれに対して絵美の表情は
少し困ったような笑顔だったんだけど、揺るがない瞳を潜めていた。
おれに好きだと言った時のようだ、と思った。少し違うかも知れないけど。
ずっと変わらないという意志のもとの、瞳。

「じゃあ…遠距離?」
「うん、智也がよければ、そうしたい」
「よければって、もう行くことは決めたんだろ?」
「ははは。そうなんだけどね」

そっか、と何度も繰り返す僕に絵美は突然にっこりと、笑う。

「ともや、すきだよ。変わらないよ。きっとずっと、大丈夫」
「…そうなんだけど」
「不安?」
「まあね。」
「寂しい?」
「そりゃあね」
「智也浮気しないでね」
「するかも、とか言って」
「できないくせに」
「…おれ嘘つけないしね、」
「わたしにめろめろでしょう?」
「あーはいはいそうです めろめろです、めろめろー」
「…浮気、ほんとにやだよ」
「しねーよ。」
「そっか、んっと…ありがと」

彼女の手を掴んで、ずっと離さないでいれたらどんなに幸せなんだろう。
いや、それって幸せなのか?おれは束縛ヤローなのか?
でも今泣きそうだ。
だめだ、絵美がいない未来を現実的にぶつけられる日がくるなんて思わなかった。
かっこ悪いから、泣かないけど。鼻をすする。

「せいぜい受験勉強がんばれよ」

素直に頑張れ、応援してるを言えないおれの全部をわかっているかのように
彼女は笑う、まぶしいくらいに鮮やかに。

「ありがと」

どうしようもなく悲しくて助けが必要な時は電話でもすればいい。逢いに行けばいい。
「きっとずっと、大丈夫」  うん、おれもそう思う。
深呼吸をしたら、そう悪くはない未来の先が見えた。がんばれ、今はそれだけだ。

誰にも言えない恋だった。恋しちゃいけない人だった。
好きだった、大好きだった、愛してた。
でも、知ってるよ、わかってるよ。
悪いのは私の方。恋愛はいつだって早い者勝ち。
もし、あの人と出会ったのが、私の方が先だったら、
もし、あの人の恋人が、私よりもずっと幼かったら、
運命は違っていたかもしれない。神様っていじわる。

本当は泣きたくなんてない。だって私の方がずっとずっと、彼のこと、愛してた。

部屋で一人、布団をかぶって誰にも邪魔されないように泣いていたら、ブーブーとバイブ。
急いでとる、同じクラスの佐多くんの文字にがっかりしている自分にがっかり。
あの人かもだなんて思ってしまう。そうだといいと願ってしまう。
見えないのに、必死に涙を拭った。鼻もすすって、深呼吸した。

「もしもし」
「よー、やっぱ泣いてた?佐多です」
「…知ってる」
「あ、こんばんわ」
「こんばん、わ。どうしたの?」
「おれさー、矢村間違ってないと思う」
「、なんのはなし」
「ほら、おれ、リュウとダチ」
「知ってたの?」
「うん」
「…ふーん。リュウの弁護?リュウを許してやってとか?」
「ちげーよ。むりむり、おれリュウのやったことはどうかと思うもん」
「じゃあ、浮気相手の非難?」
「おちつけって。矢村は間違ってないって言ったじゃん。」
「佐多くんは、何が言いたいの」
「おれさ、結構じいちゃんと仲良いんだ」
「なに」
「いーから、」
「…わかった」
「じーちゃんが、人の価値観は人それぞれだって。
 自分の正しい道を、絶対信じて進めって。」
「………」
「で、おれはリュウは間違ってると思った」
「うん」
「でも、矢村は間違ってないと思った。だから電話した」
「なに、それ。意味わかんない」
「好きだったんだろ、リュウのこと」
「………うん、好きだった」
「愛してたんだろ」
「、あいしてた。愛してた。愛してたよ。リュウのこと愛してた」
「矢村は、間違ってると思うか?その、思い」
「思い…たくない」
「うん、それでいい。それでいいと俺も思う。矢村は、間違ってない」

誰にも言えなかった恋。しちゃいけなかった相手。
だけどずっと寂しかった。誰にも認めてもらえなかったことが、
終わってしまった今、こんなやさしくあっためてくれる人がいる。
せっかく我慢してたのにまた泣きそうになると、
「あーもう、泣くなって!あ、うそ!泣いていい、いいぞ、いまだけ!」
と、不器用に、だけど優しくゆるしてくれた。なんか、可笑しい。

「っぷ。佐多くん、」
「なに?」
「ばかだね」
「、るせ」
「でも、…だけど。ありがとう」
「…おう。」
「ありがとうね」
「おう。」

そうして佐多くんは、電話を切る前に、おたがい幸せになろーぜと言った。変な人。
私も彼の真似をして「おう」と言った。ありがとう、ね。

「二人きりの世界、いきたいね」

ぽつり、独り言のように柚は言った。
だけどそれは間違いなく僕に向けられたものだと、
この手のぬくもりからじゃなくとも、感じ取れた。
そういう彼女の瞳はいつもどおりのテレビのニュースをとらえていた。
他人事の、無関心で無機質なニュース。
だけれど映される現実はあんまりにも残酷だ。
淡々と伝えるには違和感を覚えてしまう程の、事。
柚は基本的にこういう悲しいことが苦手で、
彼女の部屋のテレビから夕方のニュースが零れること自体珍しい。
(いつもなら例の教育テレビの、愉快なアニメだ)

「柚はさ、この世界が二人きりになればいいの?」
「んー?」
「それとも二人きりになれるどこかで世界を創りたいの?」
「どうだろー。よくわかんないや。」
「はは、よくわかんないんだ?」
「こーちゃんはさ、二人きりの世界、あったらどうする?」
「どうするって…?」
「食べ物とか、なんか いろいろっ」
「そうだなー、柚のためにチョコは買いためておかなきゃな」
「そうだね!板チョコ80かける360日分くらい?」
「一日一枚的な?ふとっちゃうよ」
「こーちゃんと半分こするから、大丈夫だもん」
「半分こするんだ?」
「そう。で、たまに3日我慢してその分でチョコフォンデュとか」
「じゃあマシュマロとかも買っておかなきゃね」
「あとビスケットとか」
「あ、ビスケットいいんじゃない?日持ちしそう」

それから、柚はゆっくりため息をついた。
はあ、と幸せを逃がすように、あるいは逃がさないように。

「少しさ、ほんの少しでいいからさ」
「うん」
「二人きりの世界なんて…百歩譲って無くったっていいからさ」
「うん」
「この世界があともう少しだけでも幸せで溢れればいいのにね」
「うん…うん。そうだね」

「これってわがままかな?」と笑う柚の手を握りなおした。 つよく、やさしく。
そんなことない、そんなことない、と自分に言うみたく繰り返して。
それからもう一度柚は口を開いた。

「二人きりの世界ができたらさー、どんなとこでちゅーしても誰にも怒られないよね」
「あははっ、確かに。」

そうして唇をかさねた。目をつむって、二人だけの宇宙へ、ねむるように。
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